Masukセンチネルとガイド。超能力者とその調整者。 国家に管理され、月に一度の調整セッションを義務付けられる。それが、御厨リョウと氷堂カイトの出会いだった。 触れることを嫌うリョウ。しかし、カイトに触れた瞬間、世界が変わった。 月一度の調整は、やがて毎日に。二人の境界は溶け、魂が混じり合っていく。これは「ボンディング」――法律で禁止された、魂の結合。発覚すれば、強制分離。あるいは、処刑。 「君を離さない」 カイトの執着は、愛か。それとも依存か。 「あなたなしでは、生きられない」 リョウの告白は、真実か。それとも洗脳か。 触れれば生きられる。離れれば死ぬ。これは、究極の愛の物語。
Lihat lebih banyakそれから六ヶ月が経った。 リョウとカイトは、バンコクの郊外に小さなアパートを借りて暮らしていた。 二人とも、偽名を使って生活していた。カイトは英語教師として、リョウは翻訳の仕事をしていた。 収入は多くなかった。しかし、二人には十分だった。 朝は一緒に起き、朝食を作り、仕事に出かける。 夜は一緒に夕食を食べ、映画を見たり本を読んだり、ただ抱き合っていたりする。 普通の、平凡な生活。 しかしリョウにとって、それは何よりも幸せな日々だった。「リョウ、買い物に行くぞ」 ある日曜日の朝、カイトが声をかけた。「はい、今行きます」 リョウは部屋を出て、カイトと手を繋いだ。 アパートの外に出ると、熱帯の太陽が照りつけていた。しかし、もう慣れた。 二人は市場に向かった。 色とりどりの果物、新鮮な魚、香辛料の匂い。タイの市場は、いつも活気に満ちていた。「今日は何を作る?」 カイトが尋ねた。「トムヤムクンにしましょう」 リョウは答えた。「あなたの好物ですから」「ありがとう」 カイトは微笑んだ。 二人は材料を買い、アパートに戻った。 そして、一緒に料理をした。 カイトが野菜を切り、リョウがスープを作る。 途中、カイトがリョウの腰を抱いた。「カイト、料理中ですよ」「分かってる」 カイトはリョウの首筋にキスをした。「でも、我慢できない」 リョウは笑った。 こんな日常が、こんなにも愛おしいとは。 かつては想像もできなかった。 夕食の後、二人はベランダに出た。 夕焼けが、空を染めていた。 リョウはカイトの肩に頭を預けた。「カイト」「何だ?」「幸せです」 リョウは呟
屋上での対峙から一週間が経った。 その間に、世界は大きく変わり始めていた。 リョウとカイトの映像は、瞬く間に世界中に拡散された。ソーシャルメディアでは、彼らを支持する声が圧倒的多数になった。「#FreedomToLove(愛する自由を)」というハッシュタグがトレンド入りした。世界中の人々が、リョウとカイトの物語に共感した。 そして、政治も動いた。 野党議員たちが、センチネル保護法の見直しを要求し始めた。与党内部でも、改正を求める声が上がった。 センチネル管理局は、世論の圧力に屈しつつあった。 しかし、リョウとカイトへの指名手配は、まだ解除されていなかった。 二人は、三島の手配した安全な場所――海沿いの古い民家に身を隠していた。「長くはもたないな」 カイトが言った。 二人は海を見ながら、並んで座っていた。波の音が、静かに響いていた。「どういう意味ですか?」「いずれ、センチネル管理局は俺たちを捕まえようとする」 カイトは説明した。「世論がどうであれ、法律が変わるまでは、俺たちは犯罪者だ」「でも、朝霧さんは撤退しました」「あれは、カメラがあったからだ」 カイトは首を横に振った。「次は、メディアのいない場所で襲ってくる」 リョウは不安を感じた。「なら、どうすれば……」「国外に逃げるしかない」 カイトは決断した。「センチネル保護法が施行されていない国に」「でも、それでは一生、日本に戻れません」「それでもいい」 カイトはリョウの手を取った。「君と一緒なら、どこでも生きていける」 リョウは考えた。 国を捨てる。家族を、友人を、すべてを捨てて、カイトと二人だけで生きていく。 それは、恐ろしいことだった。 しかし同時に、魅力的でもあった。
記事は、予想以上の反響を呼んだ。 翌朝、三島の記事はインターネット上で爆発的に拡散された。 『愛は罪か――ボンディングしたセンチネルとガイドの告白』 記事には、リョウとカイトのインタビューが詳細に掲載されていた。二人の写真も公開された。 ソーシャルメディアは、瞬く間にこの話題で溢れた。 賛否両論。 「彼らは何も悪くない。愛し合う権利は誰にでもある」 「いや、法律は法律だ。センチネルは国家の財産なのだから、管理されるべきだ」 「ボンディングの危険性を無視するな。一人が死ねば二人とも死ぬんだぞ」 「それでも、強制的に引き離すのは人権侵害だ」 議論は白熱した。 そして、センチネル管理局も動いた。「氷堂カイトと御厨リョウを、国家反逆罪で指名手配する」 局長の記者会見が、全国に放送された。「彼らは、センチネル保護法に違反しただけでなく、機密情報を漏洩した。これは、重大な犯罪である」 指名手配。 リョウとカイトは、正式に犯罪者とされた。「予想通りだな」 カイトは冷静に言った。 二人は三島の手配した隠れ家――廃墟となったホテルの一室にいた。「でも、世論は私たちに同情的です」 リョウはノートパソコンの画面を見ていた。「ソーシャルメディアでは、私たちを支持する声が多数です」「それでも、法律は変わらない」 カイトが窓の外を見た。「世論がどうであれ、俺たちは指名手配犯だ。捕まれば、処刑される」 リョウは唇を噛んだ。 記事の公表は、諸刃の剣だった。世論は味方についたが、同時に居場所も知られてしまった。 その時、カイトの表情が変わった。「来る」「え?」「執行部隊だ」 カイトは立ち上がった。「朝霧も、一緒だ」 リョウは窓から外を覗いた。
テレポーテーションの感覚は、溺れるようだった。 リョウの意識は引き伸ばされ、圧縮され、そして再構成された。吐き気と眩暈が同時に襲ってきて、リョウは気を失いかけた。 しかしカイトの腕が、しっかりとリョウを抱きしめていた。 その温もりだけが、リョウを現実に繋ぎ止めていた。 どれくらいの時間が経ったのか分からない。 気がつくと、リョウは固い地面の上に倒れていた。「リョウ」 カイトの声が聞こえた。「大丈夫か」「ええ……なんとか」 リョウは身体を起こし、周囲を見回した。 そこは、見知らぬ場所だった。 森。鬱蒼とした木々に囲まれた、人里離れた場所。空気が冷たく、澄んでいた。「ここは、どこですか?」「北海道だ」 カイトが答えた。「山奥の、誰も来ない場所」 北海道。東京から、千キロ以上離れた場所。「そんなに遠くまで……」「限界だった」 カイトは息を切らしていた。額に汗が滲んでいた。「これ以上遠くには、飛べない」 リョウはカイトの身体を支えた。カイトの身体が、熱を持っていた。「能力を使いすぎましたね」「ああ……でも、これで少しは時間が稼げる」 カイトは木に背中を預けた。「朝霧が追跡してきても、ここまで来るには時間がかかる」「でも、いずれは見つかる」「そうだ」 カイトは認めた。「俺の能力は、使えば使うほど追跡が容易になる。逃げれば逃げるほど、痕跡を残してしまう」 リョウは考えた。 このままでは、いずれ捕まる。時間の問題でしかない。「なら……」「なら?」「戦いましょう」 リョウは言い切った。
それから二ヶ月間、リョウとカイトは奇妙な均衡状態を保っていた。 表向きは、センチネルとガイドのペア。調整セッションを定期的に行う、医療行為の関係。 しかし実際には、恋人同士と変わらない生活を送っていた。 朝は一緒に目を覚まし、朝食を共にする。カイトが任務に出る時は、リョウは彼の無事を祈る。夜は抱き合って眠る。 ただし、セックスだけはしなかった。 それが、二人の最後の防波堤だった。肉体関係を持たないことで、自分たちはまだ一線を越えていないと信じようとしていた。 しかし実際には、既にその一線など
それは、調整を始めて半年が経った頃に起こった。 リョウは目を覚まし、自分がどこにいるのか分からなくなった。 見知らぬ天井。見知らぬ部屋。しかし、違和感はなかった。むしろ、ここが正しい場所だという確信があった。「目が覚めたか」 声がして、リョウは首を巡らせた。 カイトが、ベッドの傍らの椅子に座っていた。ラップトップを膝に置き、何か作業をしている。「ここは……」「俺の家だ」 カイトは画面から目を離さずに答えた。「君は昨夜
調整の頻度が、また変わった。 二週間に一度だったものが、一週間に一度になった。さらに三か月後には、週に二度になった。 そして今、リョウは毎日、カイトに会っていた。「これは異常です」 リョウは医療チームのリーダーである如月医師に訴えた。「契約では月に一度だったはずです。それが毎日なんて」「氷堂センチネルの能力が不安定化しているのです」 如月医師は冷静に答えた。「彼のような高位センチネルは、常に能力の暴走リスクを抱えています。あなたの調整なしでは、彼は社会生活を送
気がつくと、リョウは見知らぬ場所にいた。 古い日本家屋。畳の部屋。障子から差し込む柔らかな光。「ここは……」「俺の、隠れ家だ」 カイトの声がして、リョウは振り向いた。カイトは窓の外を見ていた。「山の中。最寄りの町まで車で一時間。センチネル管理局も、ここの存在は知らない」 リョウは身体を起こした。全身の力が抜けていたが、カイトが近くにいるおかげで症状は治まっていた。「どうやって、こんな場所を……」「三年前、